献金、三たび曲がり角に

地方格差だけが問題なのか
日本経済新聞社の調査によれば、2006年度に主要企業が取締役に払った報酬の平均額は6,030万円で、05年度に比べ21%伸びた。株主に批判されがちな役員の退職慰労金を廃止するとともに、報酬を業績連動型に切り替えた企業が多いことが増加の一因である。最近の景気回復で企業業績が順調に伸びたことを考えれば、役員報酬の増加も当然の結果だろう。しかし一握りの役員以外の人々も、長期化する景気回復の恩恵にあずかっているのだろうか。今年の経済財政白書は役員と従業員の平均賃金格差が02年度以降、急速に拡大していると分析している。05年度の大企業製造業では、役員の給与・賞与は従業員の4.78倍にのぼる。役員はこの間に約7割増えたのに対し、従業員はほぼ横ばいだったためだ。平均賃金格差は1970年代後半から01年度まで2-3倍で安定していた。社会主義国より社会主義的といわれたゆえんでもある。しかし02年度から格差は拡大し始める。従業員は景気回復の恩恵を実感することなく、不公平感を募らせていく。90年代後半の橋本政権で緒に就いた各分野での改革は、小泉政権のもとでさらに加速した。企業経営に関わる制度についても、ストックオプション制度の創設などが進められ、定款自治の拡大、M&A(合併・買収)の是認、剰余金配当の自由化などを特色とする会社法の施行により、企業が利益をより追求しやすい下地が整えられた。従業員にも成果主義を取り入れる企業は増えている。しかしそれで従業員へ払う給与総額が増えているかというとそうではない。労働分配率は90年代をピークに低下傾向をたどっている。改革の結果、株主と並んで少数の役員が厚遇される形になり、従業員との格差が開いてきた。企業の業績がアップしたのは役員だけの力ではなく、社員の努力のたまものである。外資系企業のみならず、日本企業でも役員と従業員との格差がどんどん広がって(ゆ)くことに、日本社会は耐えられるのだろうか。昨今論議される格差問題の中心は都市と地方、正規雇用と非正規雇用である。しかしそのかたわらで社内格差も静かに進行中だ。こんな不満も安倍政権に向かい、参院選敗北と辞任表明につながったのではないだろうか。
(日本経済新聞)
No comments:
Post a Comment